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【早稲田大学田原准教授執筆】体内時計は食事で調節できる?時間栄養学を知ろう

日々の体内時計の乱れは健康に悪い

日々の生活リズムを整えるのはなかなか難しい。今日は朝少し寝坊しちゃったから、急いで家を出なければ。金曜日、久しぶりに終電ギリギリまで飲んでしまった。明日は遅くまで寝ようかな。あー今日は残業が、、、晩ごはんを食べる時間すらない。。。などなど生活リズムはいつも気づいたら乱れがち。

そうはいっても、体内時計は健康に保つべきです。極論をいうと、夜勤を続けていた看護師や工場勤務の方のその後を調べた疫学調査では、肥満、糖尿病、高血圧といった生活習慣病、または癌やうつ病などになりやすいことが知られています。
つまり、体内時計は乱さない、日々規則正しい生活を送ることは、健康を改善または良い状態に保つ作用があることは確かです。

さて、体内時計を整えるものは、光、食事、運動の3つです。ここでは、どういった食事が体内時計をうまく調節してくれるのかについて紹介していきたいと思います。

食事は末梢臓器の体内時計を調節する

その前に基礎知識を。私たちの体の中には、脳にある「中枢時計」と、肝臓や腸などあらゆる末梢臓器にある「末梢時計」が存在します。
光は網膜で感じ、その情報は中枢時計に届きます。中枢時計はこの光情報に対して時刻の調節を行います。その時刻情報を、末梢時計にさらに伝えることで、私たちの体は一つの時刻を刻むことができます。

一方で、食事は中枢時計には情報はほとんど届かずに、末梢時計を直接調節することが分かっています。運動も同様に末梢時計を直接調節することができます。つまり、食事や運動をうまく使うことで、光にプラス効果で体内時計を健康に保つことが可能になります。

朝ごはんは体内時計を早め、夜食は遅らせる

では、食事で体内時計を調節、というのはどういう意味なのでしょうか?
大事なのは食事のタイミング(時刻)によって、その調節方法が異なるということです。つまり、朝ごはんは体内時計を進める、早める効果があります。それに対し、夕ごはんや夜食は、体内時計を遅らせる効果をもっています。

ここで大事なのは、私たちの体内時計は1日24時間ぴったりに出来ておらず、24時間より少し長いということです。つまり、何もしなければ毎日10分〜1時間、人によっては2時間くらい遅れてしまうような仕様になっているのです。
よって、基本的には、体内時計は毎日早める必要があるのです。そう考えると、朝食による体内時計を早める効果は良いのですが、夜食による遅らせる効果はさらに体内時計の遅れを招き悪影響であるというわけです。

また、お昼ごはんの時間帯は、食事に対する体内時計調節効果は弱いですが、どちらかというと遅らせる効果になります。よって、朝ごはんを抜いてお昼ごはんから食べたとすると、朝食による体内時計を早める効果は得られず、逆に体内時計の遅れを招く恐れがあります。

理想の朝ごはんとは

私たちの研究室では、日々、どういった食事が体内時計を調節するのかについて研究を重ねてきました。ここでは、現在までに分かっている理想の朝ごはん内容を紹介したいと思います。

食後のインスリンが鍵

食事が体内時計を調節するメカニズムのひとつに、インスリンが挙げられます。食事を取ると体内に糖分が吸収され、血液中の糖(グルコース)、すなわち「血糖」が増加します。これが、血糖値が上昇した状態です。血糖値が上がると、膵臓にあるβ(ベータ)細胞はその変化を感知し、インスリンというホルモンを血中に分泌します。インスリンは各臓器にあるインスリン受容体に作用し、血糖を取り込むように指示します。結果、血糖の調節が図られて血糖値は下がり、取り込まれたグルコースは臓器のエネルギーとして利用されたり蓄えられたりします。

このようにインスリンは血糖値を下げる機能を持つ、体内で唯一のホルモンなのですが、最近の研究で、肝臓や脂肪細胞の時計遺伝子の働きを調節する働きも持っていることが分かりました。つまり、食後にインスリンが分泌されることで、体内時計の時刻調節が起こるのです。

魚の脂と、炭水化物

このインスリンの作用を強めることは、つまり体内時計のリセット効果を強めることに等しいです。例えば、消化の早い炭水化物は、小腸からの糖の吸収も早く、血糖値が早く上昇し、インスリン分泌も多くなり、その結果体内時計の調節効果も高まります。実際に、ジャガイモやトウモロコシに含まれる炭水化物よりも、お米に含まれる炭水化物の方が消化は早いです。これら3つの炭水化物を比較した結果、お米が一番体内時計調節効果が強いことが、動物試験で明らかになっています。

また、魚の脂に含まれるDHA/EPAといったオメガ3脂肪酸は、腸管にある細胞を刺激し、インスリンの効果を高めるインクレチンというホルモンの分泌を促します。よって、DHA/EPA、または魚の脂が含まれるような食事は、体内時計の調節効果が大きくなります。これらの結果から、焼き魚定食や、ツナサンド、ツナマヨおにぎりといったご飯が朝ごはんに良い可能性があります。

逆に夕ごはんはインスリン分泌を減らす努力を

インスリンの分泌やインスリンの効き具合は、朝に高く、夕〜夜に低いことが知られています。つまり、夕食後は朝食後に比べ血糖値が上がりやすいのです。食後高血糖は糖尿病の原因となり、注意が必要です。よって、夕食は血糖値が上がらないような食事、つまり炭水化物の摂取を抑える、または糖質の吸収を抑えるような食事がいいでしょう。

例えば、最近では難消化性デキストリンやカテキンとった、糖の吸収を抑えるような成分が含まれるトクホや機能性表示食品がたくさん出ています。夕食と共に高濃度カテキン茶を飲むとよいでしょう。

タンパク質

炭水化物や魚の脂だけではありません。タンパク質やアミノ酸もまた体内時計の調節に効果的であることが、最近の我々の研究で分かってきました。これは、タンパク質を摂取した際に血中で濃度が上がるIGF-1とグルカゴンが、体内時計の時刻調節を引き起こすからです。

特に、タンパク質を構成するアミノ酸のうち、システインがIGF1-1の分泌を強く引き起こし、体内時計を動かす効果があることが分かりました。よって、タンパク質もまた朝ごはんによる時計調節には大事なのです。

牛乳

朝の牛乳は体内時計を整えるのに効果的です。牛乳に含まれるトリプトファンは、セロトニンやメラトニンの材料になります。メラトニンは睡眠ホルモンとして知られ、夜寝る前に分泌されることで眠気を誘います。つまり、朝牛乳を飲んでおくことで、トリプトファンが夜にメラトニンとなって心地よい眠気をもたらしてくれるのです。

また、トリプトファンが含まれるのは、牛乳の他に、チーズやヨーグルトなどの乳製品、バナナ、ナッツ類、納豆、豆腐、卵などです。これらの食材を朝に摂ることがいいでしょう。

朝コーヒー

私たちの研究室では、体内時計に効く栄養成分を日々探索していますが、その中でカフェインは抜群に強い体内時計への効果を持っていることが分かりました。その効果は3種類ありました。ひとつは食後のインスリンと同様に、体内時計の時刻調節作用でした。ここでも、朝のカフェインは体内時計を早める効果、夜のカフェインは体内時計を遅らせる効果がありました。

これは実際にヒト試験でも明らかになっており、夕方18時以降のコーヒーは体内時計の遅れを引き起します。カフェインは覚醒作用が有ることは知られていますが、夜に飲むと眠れなくなると共に、体内時計も遅れてしまうのです。よって、コーヒー等のカフェイン飲料は夕方以降は控える方がいいでしょう。また、朝のカフェイン飲料は、体内時計を早めるために効果的といえるでしょう。

カフェインの2つ目の効果は、体内時計のメリハリを強める効果でした。つまり、時差ボケや夜勤等で鈍った体内時計を、カフェインが助けてくれる可能性があります。

3つ目の効果は悪い影響で、体内時計を遅らせてしまうことでした。これは、慢性的に1日中カフェインを摂取していると、体内時計が24時間だったとしたら25時間になってしまうような遅らせてしまう効果をもたらすことが、細胞試験や動物試験により分かっています。仕事中に何杯も飲むことは、体内時計を遅らせてしまい悪影響というわけです。ただ、カフェインには中毒性があり、普段たくさん飲んでいる方はカフェインによる覚醒作用が弱まってきます。こういった方は、体内時計への効果も弱い可能性があります。

シークアーサー、ノビレチン

シークヮーサーやカボス、ポンカンなどの柑橘系植物に多く含まれる、「ノビレチン」というフラボノイド化合物もまた、私たちの研究室で発見した体内時計調節成分です。ノビレチンはカフェインと同様に、時計遺伝子のメリハリ(1日の変動)を高めてくれる作用があります。さらに、カフェイン同様、ずっと投与していると体内時計を遅らせてしまう効果もあります。よって、朝イチにノビレチンを1日1回摂ることが体内時計にいいと考えられます。

また、最近のいくつかの研究で、ノビレチンが抗肥満効果をもつことも分かっています。実際に、ノビレチンを脂肪分の高い餌に混ぜてマウスに与えると、高脂肪の体重増加のみならず、肝臓の体内時計のメリハリ低下を抑制したそうです。つまり、ノビレチンは体内時計にも、肥満にも効く、一石二鳥な機能性食品です。また、ノビレチンは抗酸化作用や、アルツハイマー病にもよいという報告もあります。

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朝ごはんの重要性

ここまで読んできた方は思ったかもしれません。結局、炭水化物、タンパク質、脂質、何を食べても体内時計は調節できるのではないかと。その通りだと私は考えています。忙しくても、寝坊しても、とにかく朝に何か食べる、または飲む。これが体内時計にとって非常に重要だと思います。

その時に朝日を浴びて中枢時計も調節するとより効果的です。さらに、通勤中にエスカレーターではなく階段を使ったり、早足で歩くことで、運動効果もプラスしてみましょう。ただでさえ遅れやすい私たちの体内時計は、朝の何気ない行動だけでも十分健康に保つことができるはずです。

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