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【早稲田大学田原准教授執筆】24時間より長い?体内時計を知ろう

地球で生きていくために生物が獲得してきたシステム

私たちの住む地球は24時間周期で自転しています。

このサイクルに合わせて生きていくために、地球上の生物は、「体内時計」という時を知るシステムを進化的に獲得してきました。
それはバクテリア、植物、鳥類、魚類、そして哺乳類まで、多岐に渡る生物に保存されたシステムです。

例えば朝顔は朝に咲きます。アマガエルは夜に鳴き、ネズミやタヌキは夜に活動します。私たち人間は、昼間に活動し、夜になると眠くなり、寝ます。これらはすべて体内時計によって制御されているのです。

洞窟で生活し体内時計を調べた探検家

体内時計は、「そろそろ朝ですよ、そろそろ寝る時間ですよ」と私たちに教えてくれます。これを証明したのは、1962年の洞窟内での実験でした。

「Caveman(洞窟人間)」と呼ばれた探検家、Michel Siffre(ミシェル・シッフル)が行った実験です。Cavemanは、時計を持たずに洞窟に3ヶ月近く入り、自身の生活リズムを記録したのです。洞窟内は薄暗く、湿度や温度が常に一定です。また、本人は時計を持っていないので、今何時なのかは知ることはできません。なので、毎日起きる、寝る、食べるといった際に、地上にいる研究者に電話を使って行動を伝え、その時刻を記録をしてもらったのでした。

Cavemanは6月16日に洞窟生活を始め、9月14日に洞窟から出てきました。実際に洞窟内で寝て起きてを周期的に繰り返しており、本人は自分でも日々の生活から何日経ったか記録していました。しかし驚いたことに、9月14日に出てきた時に、本人は8月20日だと思っていたのでした。

つまり、洞窟生活3ヶ月の間に、実際の日付とは1ヶ月近くズレてしまったのです。計算してみると、Cavemanの1日は地上での1日(24時間)よりも長く、約33時間というとても長い1日だったのです。

体内時計は25時間

 その後、いくつかの研究グループが、同じような時計の無い部屋で生活させる実験を繰り返し行った結果、ヒトの体内時計は平均して約25時間(※違う計測方法では24.1時間という報告もある)だと結論付けています。

つまり、私たちヒトの体内時計は、1日24時間よりも長めにできているのです。もしあなたの時計が25時間であったら、毎日約1時間遅れてしまうわけです。これはつまり、2週間調整しないと、約半日ズレてしまうことになり、昼夜逆転してしまうことになります。  

実際に体内時計をうまく調節できない病気も存在します。「非24時間睡眠覚醒症候群」といって、患者さんは毎日1−2時間体内時計が遅れてしまう睡眠障害です。つまり、上述の時計のない部屋で生活しているのと同じ状況です。患者さんは時計があっても、それに合わせて生活できません。治療方法としては、入院してもらい、生活リズムを強制的に24時間に整えたり、睡眠薬をつかうことで、24時間リズムに戻すことができます。

しかし、患者さんによってはその処置が辛く、これまでの25時間生活に戻ってしまうことも多いようです。

毎日の時刻合わせが体内時計にメリハリを与える

 よって、私たちは毎日、自身の体内時計の時刻を調整し、24時間にしなければいけません。もうご存知かもしれませんが、そこで時計を調節してくれるのが、朝日だったり朝ごはんです。体内時計研究者が、朝日を浴びて朝ごはんを食べましょうと推奨する理由はそこにあるのです。  

でも、なんで私たちの体内時計は24時間ぴったりに進化しなかったのでしょうか。よく聞かれる質問です。しかし正解はまだよく分かっていません。諸説ありますが、

  • 毎日体内時計を調節するメカニズムがしっかり備わっていること
  • 毎日時刻を合わせるという業務があること

これが逆に体内時計というシステムをより強固なものにしているのではないか、と考えられています。このシステムがあるからこそ、私たちは海外に行った時も、時差ボケを治すことができるのです。時刻を調節する能力を持っていることで、柔軟に対応できるようにできているのです。

体内時計を調節する方法

 では、時刻を調節するのはどうしたらいいのでしょうか。つまり、毎日体内時計を早める、24時間に調整するためにはどうしたらいいのでしょうか。さきほど申した通り、「光、食事」です。また、運動も実は効果的です。

「光・食事・運動」

この3つが主に外からの情報として体内時計を調節できる材料です。

すべてはタイミング。光、食事、運動で時計を調節

結論を先にいうと、体内時計を早めるためには、朝日を浴び、朝ごはんを食べ、朝運動をすることがベストです。そして重要なことは、夜の光、夜食、夜の運動は、体内時計を遅らせてしまい、逆効果ということを知っておく必要があります。 つまり、時刻調節には「タイミング」が非常に重要なのです。同じ光でも朝は体内時計を前に進める効果、夜は体内時計を遅らせてしまう効果となり、真逆の調節をしてしまうのです。体内時計研究者の私にとっては、これが体内時計の面白さでもあります。同じ食事や運動でも、「いつ?」というタイミングを間違えてしまえば、その効果は全く別物になってしまうのです。

おすすめできない夜の運動

読者の方で夜に運動している方もいるかもしれません。最近は24時間ジムが駅前に多くできています。私の住んでいる駅も2つも有りました。また、都心では会社終わりの方が皇居ランをすることが流行っています。

しかし、体内時計研究者としては、夜の運動はおすすめしません。先述の通り、夜運動が体内時計を遅らせてしまうからです。 ボクサー選手の体内時計を調べた実験があります。実験では、ボクサー選手がトレーニングを昼間にした場合と、夜20時以降にした場合で、体内時計の変化を比べています。その結果、20時〜22時のトレーニングを2週間行うことで、体内時計の時刻が普段より4時間も遅れてしまっていることが分かったのです。

同様の実験を私の研究室ではマウスで行っています。マウスは夜行性なので夜に活動します。朝方、つまりマウスが眠り始める時刻に輪回しを使って運動をさせました。その結果、普段の体内時計の時刻より約4時間ほど体内時計が遅れてしまいました。よって、夜の運動は体内時計を遅らせてしまう効果となってしまうのです。

夜はヨガなどリラックス系の運動を

 「はい、じゃあ夜の運動は辞めておきます」

とはいかないのが、忙しい社会人のホンネだと思います。仕事終わりにせっかく作った趣味、汗を流して溜まった仕事のストレスも洗い流したい、その気持ちはよく分かります。 できたらですが、夜の運動は20時までにしておくと良いです。また、仕事のない休日は、なるべく朝やお昼の時間帯に運動するといいでしょう。これくらいであれば可能ではないでしょうか。

運動は、交感神経の活動を高め、アドレナリンを出し、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を促します。これらの反応が、体内時計の時刻を直接変化させることが分かっています。つまり、激しい運動はより体内時計を動かすパワーがあります。歩くよりも走ったり筋トレをすることで体内時計はリセットされやすいのです。よって、もし20時以降の運動をしたいのであれば、激しい運動ではなく、ヨガなどのリラックス効果のある優しめな運動が良いでしょう。

交感神経は午後から夕方にかけて活発になります。逆に夜から夜中にかけては、副交感神経の活動が高まることで体はリラックスしていきます。よって、夜遅くの運動は交感神経優位な状態をもたらし、その後の睡眠の質を低下させてしまいます。運動をするならせめて寝る3時間前までに終わらせましょう。

おすすめできない夜の青色光

 ここまで述べてきたとおり、私たちは毎日体内時計が遅れがちなので、遅れてしまう要因を断ち切っていく必要があります。

その一つに夜の光があります。特に青い光(波長でいうと460nm付近)は、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を減らしてしまいます。また、夜の青い光は体内時計の時刻を遅らせてしまう効果もあります。 最新の研究では、30lux以下の光でも、メラトニンの量を半分以下に減らしてしまうことがヒト研究で分かっています。

では30luxとはどれくらいの光でしょうか?      

状況強さ
晴れの日10,000-100,000 lux
室内の蛍光灯下200-1000 lux
PC画面100-500 lux
夜間の街灯下30-100 lux
月明り1-5 lux

この数字から分かるように、普段の室内では200lux以上あります。また、PC画面は500lux程度になることもあります。よって、普段私たちが生活している環境では、メラトニンの分泌は少し抑えられているのかもしれません。ただ、研究結果では、光の強度が上がるほど、メラトニンの抑制も高まることが分かっています。

夜の室内は暖色系の照明に

よって、少しでも夜の光を抑えることで、メラトニン分泌量を増やし、心地よい眠気を誘うことができるといえます。そのためには、部屋の照明をオレンジ色の暖色系に変えてあげることで、青色を減らすことができます。白色LEDは特に青色が強いので、できる限り夜は暖色系のライトに変えることが大事です。

また、夜のPC作業やスマホも、照度を落としたり、ナイトモードにすることが効果的です。私のiPhoneでは、夜に使う時は、ナイトモードにすると共に、さらに意図的に照度を落としています。

原始的な生活が体内時計にとって一番なのかもしれない

最初に述べたとおり、私たちの体内時計は地球上で生きていくために獲得してきたシステムです。技術の発展に伴い、太陽の光に関わらず、24時間生活できる環境を我々は作り出してしまったのです。ですが、それは体内時計には適応できない環境なのです。

夜のフィットネスジム、夜の照明やスマホを辞め、原始的な生活、日が落ちて暗くなったら寝る生活が、体内時計にはベストなのです。

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